世界の文献に見るバラの話

「英国の花の庭」 ウィリアム・ロビンソン著 1883発行
The English Flower Garden by William Robinson

今から130年ほど前にウィリアム・ロビンソンW.Robinsonが執筆した「英国の花の庭」The English Flower Gardenは現在でも再版されるガーデニングの古典的名著であり、多くの園芸家を魅了している。  
この書籍の一章に「新しいバラの庭」という章がある。
130年前は一季咲きのバラが中心であり、四季咲きバラの育種が進みはじめた頃で、時代が異なるために今では合わない部分もあるが、時代を超えた内容、なかでも面白い下りを抜粋して紹介しよう。

兵庫県立淡路景観園芸学校   
主任景観園芸専門員   
能勢 健吉

新しいバラの庭

 世間の花の庭を見ると、バラは他の植物から隔離して育てられていたり、あるいはバラをまったく使っておらず、そうした手法は大きな間違いである。
 貧相で荒れた場所の多くは、バラを植えるだけで美しい輝きが生まれ、その変化には実に目をみはるものがある。なのに、大抵の人々はこうした空き地に「バラ園」なるもの、つまりバラを植えただけの、夏の数週間しか花のない見苦しい空間にしてしまう。このバラ園の考え方は古く、バラの種類が今よりも少なく、ほとんどが夏咲きのバラだった時代のものである。
 生産者の間で使われる品種名を見ると、開花期が最も短いバラに「パーペチュアル系交配種」(パーペチュアルとは「永遠」という意味)という名前をつけているというおかしな話も、世間の花の庭にバラが使われていないことと何らかの関係があるかもしれない。
 展示会というものは、バラ園に比べると重要性の上で劣るのに、庭に悪影響を与えている。展示会にバラを出品する人々のほとんどは、ドッグ・ローズやマネッティのような接ぎ木台にいかに安く大輪の花を咲かせるかを最大の狙いとしているのだから。

バラは「装飾的」ではない?

 展示会だけでなく書籍もバラに悪い影響を与えている。書籍の表現を引用するとバラは「空間装飾的ではない」とある。また、バラはバラだけで植えるのが良く他の植物と一緒には育てにくいなどと言っている。このような誤った考えは、特に大きな庭園に悪い影響を与えている。
 夏咲きで開花期間の短い野生種のバラしかなかった時代は終わったのだ。この五十年の間に、旺盛に成育し夏中咲き続ける、愛くるしいティー・ローズなど、開花期の長い新しい品種が多く生まれている。品評会への出品者とは違って、花の庭づくりでは花壇を自分の理想として出品する必要がないのだから、先人たちのようにバラを他の植物と分けて育てるというような考え方をする必要はまったくないのである。

バラを花の庭に戻そう

 バラは装飾的であり、あらゆる装飾的な植物の「女王」と言える。そして実に多様な場面で使えるのもバラである。
 アンナ・オリバーやティー・ローズのように庭の中心に据えられる気高いバラから、生け垣の間から長く花茎を伸ばす野生のバラ、あるいはさまざまな形に合わせて茎を伸ばすツルバラまで、バラを楽しむ場面は多様だ。もし、古いツルバラの繊細さが欲しいなら、今ではブーケ・ドールのように、もっともっと気品がありながら夏から秋まで咲き続ける品種も生まれている。
 バラをあるべき本来の場所へ戻すことは、バラにとっても庭にとっても素晴らしいことなのである。バラの香りや葉や花の美しさが醜い庭を救ってくれる。例えばティー・ローズはどんな半耐寒性の植物よりも長く咲き、それらの植物のように毎年新しい土に植え替える必要も無い。私自身、数年間同じ場所でバラを育てているが、それは秋まで咲き続けてくれる。バラの茂みがトレリスを弓状に被い、冬の寒さに耐え、平面的な壁面を立体的に飾り、光と陰を作り出してくれている。バラは花の庭に戻ってくるべきである。

(掲載日 2007.06.02)