ブルガリアのバラ祭り

ブルガリアは北緯43度、北海道富良野と同じ緯度に位置し、南はギリシャ、トルコ、東は黒海を臨みます。通称『バラの谷』は、ソフィア空港から東へ130kmほどの距離にあり、バルカン山脈とスレドナ・ゴラ山脈に挟まれた地域で、谷間や峡谷といったイメージではなく広大なバラ畑が広がっている所でした。カザンラク市を中心に、カルロヴォ、プロブディフの地域があり、この一帯を地元では『バラの谷』と呼んでいます。バラ(ダマスクローズ)は16世紀後半にオスマン・トルコによって持ち込まれ、現在では世界のバラ香料の8割を占める産地としてその位を固たるものにしています。

 バラの谷の冬は寒く、5?6にかけては毎日ジョウロでまいているような恵みの雨がバラ畑に降ります。この適当な湿度が花に含まれる精油の蒸発を抑え、精油成分を豊かに育みます。

 この地のバラ祭りは、1903年に収穫祭として第1回が催されたのが始まりと言われています。近年になって、シャネル社や有名な香料会社・化粧品会社の幹部が?ローズ・フェスティバル"と称してこの季節に各地から集まり、同時に観光客も増えて大フェスティバルとして定着するようになりました。

 祭りはバラの開花時期に左右され、毎年変わるようですが6月の第一日曜日から一週間位実施されています。私がカザンラクホテルにチェックインした日は、ロビーで民族衣装を着た若い男女が真っ赤なバラ酒で出迎えてくれました。

  夕刻になるとバラ公園で民族舞踊大が始まり街中が賑やかなお祭りムード一色になります。みんなで輪になって手をつなぎ、ステップを踏みながら熱気むんむんで音楽に合わせて踊ります。少々の体力ではリズムについていけません。

  バラ祭りの昼の見せ場は、若いきれいな女性たちのバラ摘みです。その年に選ばれた『バラの女王』たちと一緒に、一輪ずつバラを摘みます。参加者の多くはバラ摘みをさっさと辞めて、写真撮影やビデオ撮りに躍起になります。
  バラは棘が痛くて、そうそう摘めるものではありません。爪もたちまち真っ黒になります。バラの花弁に蝋がたっぷりあることを、ブルガリアで初めて体験しました。

  舞踊団も音楽と踊りで祭りを盛り上げ、最後は摘んだバラを畑の一箇所に山盛りに集めてお酒をふりかけ収穫を祝うお祈りをします。
  そのあとは、なんとそのバラを足で踏みつけながらまた踊りを始めます。無残に踏まれた大量のバラは、花びらに含まれている精油とお酒のアルコールが混ざり合い、ふりそそぐ太陽の熱でもったいないくらいのすばらしい芳香を漂わせます。思わず踏みつけられたバラに顔をうずめたい衝動に駆られ、バラをこよなく愛したクレオパトラの気持ちが少し解ったような気がしました。

山本淑子アロマセラピストスクール校長
山本淑子
(掲載日 2008.11.12)