バラの思い出

 私はロマンチックな男ではないので、実際に経験した103本のバラのお話をしたいと思います。

 それは、以前働いていたバラ園でのお話です。そこでは何千本というバラを栽培しており、お客様に気に入ったバラを自らの手で切り取ってもらい購入していただくというシステムをとっていました。このシステムは大変好評で、若い人も年配の人も、それまであまりバラに興味がなかったという人までもが、目を輝かせ思い思いのバラを切り取って、買って行かれました。

  こうした仕事は出荷時期に合わせ作業をするので、バラ作りにはお正月休みもありません。お正月間近のある日、あるお客様から「花好きのおばあさんの100歳記念パーティがお正月にあって、招待されたので、100本のバラを購入したい」という申し出がありました。そのため、私は黙々と100本のバラを切り取り、大きな樽に入れてパーティ前夜にお届けしました。

 おばあさんは、そのバラを受け取ると、何度も何度も「美しゅうて」と言いながら眺めていたそうです。次の日、パーティーの会場でおばあさんは、出席者一人ひとりに感謝の意を込めてそのバラを手渡しました。手渡された人はおばあさんの生きてきた100年の歴史をかみしめながらバラを持ち帰り飾ったところ、そのバラは1か月以上も元気で楽しめたそうです。

 後日、バラをご購入されたお客様から、「素晴らしいバラだった」とお褒めの言葉を頂戴しました。おばあさんは「女の人は幾つになっても、美しい花をもらえると嬉しい。一生に一度、100本のバラをいただく機会があった」ととても喜んでくれていたそうです。
 裏話を明かすと、この注文は実は100本ではなく103本でした。それが「もっと長生きしてね」というお客様の気持ちを表すメッセージだったのです。

 バラは私にとって長生きのシンボルです。これからも園芸に携わることで自分の歴史を刻み続けていきたいと思います。ちなみに私の好きなバラは、いろんな世代に受け入れられるモッコウバラです。

ひょうごローズクラブ理事   
ひょうごオープンガーデンネットワーク代表
稲澤 範治
(掲載日 2007.06.02)