奥深いバラの世界(1)

バラって、いったいどんな植物なのでしょうか。長年その生産に関わってこられた宝塚・確実園本縁の園芸家、前野義博さんに、バラについての基本的なことを教えていただきました。


【プロフィール】
1946年、鳥取県生まれ。大阪府立大学農学部遺伝育種科卒業。
68年に確実園本園に入社、バラの苗木生産、販売に関わる。
各地で切り花の生産指導、各地公園やバラ園の栽培指導、園芸愛好家へのバラの栽培指導などを行っている。


 バラの世界に足を踏み入れてから30年以上になります。職業として、苦労も多かったのですが、それ以上に多くのバラたちと出会えたことを幸せに思っています。出会った多くのバラの中で、特に好きなものは数多くありますが、嫌いなものは一つとしてありません。どのバラたちもそれぞれが四季折々に固有の魅力を見せてくれるのです。

◆種類
 バラの品種は多く、3万種とも言われていますが、毎年多くの新種が発表されているので実際にはもっと多いでしょう。バラの魅力はただ品種が多いだけでなく、それぞれの持つ形体の多様さにあります。

◆花色
 花色の好みは年々変化し、最近では淡い色や、落ち着いたクラシックな感じのブルー系やブラウン系のバラが好まれています。サントリーが現在開発中の「青いバラ」が完成すれば、バラの花色はほぼ全てをカバーすることになりますが、もっと思いもよらないような花色の出現があるかもしれません。

◆花の大きさ
 それぞれの花の大きさも、驚くほどの違いがあります。満開でも5mmに満たないもの(ホワイト・ジュエルス)から、20cmを越えるもの(その名もチャンピョン)まであります。

◆花数
 中輪のバラは3?10輪の房咲きになり、花数が多く花もちもよいので人気があります。また大輪花のように、一枝に一花を咲かせるものから、小輪花では一枝に50輪以上も咲かせるものまであります。

◆花弁
 花弁(はなびら)は原種では5枚が基本(希に4枚)で、改良された現代バラにも5弁の一重咲きが多くあります。まるで桜やコスモスのようですが、その清楚な美しさから、近年は人気も高まっています。花弁の多いものでは、オールドローズの「ケンティフォリア種」は、名そのものが百花弁を意味していて、実際にその花弁数は100枚を超えます。オールドローズとの交配によって新しく生み出された品種(イングリッシュ・ローズなど)は、50枚以上も花弁を持つものが多くあります。

◆樹高
 ミニバラの矮性種などでは、何年育てても樹高が10cm以下にしかならず、もっぱら鉢植えで楽しむことになります。野生種に近い「ランブラーローズ」のような系統では、1年に5m以上も伸び、枝葉を茂らせるので、小さな小屋ぐらいなら数年で多い尽くすほどの強大な生育を見せるものもあります。

◆樹形
 バラのほとんどが上に向かって伸びますが、日本の「テリハノイバラ」の血を受け継いだものは、平地では真横に、斜面では下に向かって伸びる性質があり、グランドカバーに使われています。またツルバラでは、そのフック状のトゲを使い、立木や岩壁をやすやすと登ってゆくものもあります。

◆香り
 バラの花の大きな魅力はその香りにもあります。香りの女王と称される上質で、誰にも好まれるバラの香りは、その癒し効果から、古代より薬用や香料として珍重されてきました。バラの香りは単一なものではなく、いろいろな香りを持つ原種が関わり、現代バラでは特に複雑にからみあい、どれ一つとして同じ香りはないといえます。小さな花でも強い香りを持つものがあり、宇宙飛行士の向井千秋さんが、宇宙での香りの実験にミニバラを選んだのは有名な話です。(オーバーナイト・センセーション)

◆育種
 これからの新しい品種の開発には、この香りのよさや強さとともに、栽培の容易な強健で耐病性の強いものが求められており、世界中のバラのブリーダー(育種家)の共通した目標になっています

◆これから
 花色も全て揃い、さまざまな形態を持ち、よい香りにつつまれたバラたち。もうこれ以上のものはないのではと思われるでしょうが、まだまだ改良の余地はあります。より美しい花色、より香り高いもの、より強健に育つものへと開発は続けられているのです。